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2021.03.01

Appleの新しいM1チップ搭載MacBookは機械学習に関するビーストマシンだ【前編】(CreateMLでの比較)

著者のDaniel Bourke氏はオーストラリア在住の機械学習エンジニアであり、Mediumに機械学習の学びに関する様々な記事を投稿しており、そのうちのいくつかはAINOW翻訳記事として公開しています。同氏が昨年12月末にMediumに投稿した記事『Appleの新しいM1チップ搭載MacBookは機械学習に関するビーストマシンだ』では、M1チップ搭載MacBookを使ったAIタスクのベンチマークが公開されました。
2020年11月、Appleは同社純正チップ「M1チップ」とそれを搭載したMacBook Airと13インチMacBook Proを発表しました。同チップはCPUとGPUで驚異的な性能を発揮するうえに、Neural Engineを実装することによって機械学習の実行にも最適化されていると語られました。この説明を確かめるために、Bourke氏は実際にその性能を測定してみました。
同氏はM1チップ搭載MacBook Air、M1チップ搭載13インチMacBook Pro、そしてIntelチップ搭載16インチMacBook Proを用意して、以下のような3つの実験を実行しました(実験結果の詳細は以下の記事本文を参照)。
  • 実験1:Final Cut Proを使って動画を書き出したところ、RAMを最大限まで増強していた16インチMacBook Proが最速だったが、バッテリー消費が激しかった。対してM1チップ搭載のMacBook2モデルはバッテリー消費が小さく、動作も静かだった。
  • 実験2:macOSに実装されている機械学習実行機能「CreateML」を使ってAIモデルの訓練を実行したところ、MacBook Airが最速だった。16インチMacBook Proは途中でバッテリーが切れたうえに、再充電して訓練を再開しても完了しなかった。
  • 実験3:macOSでTensorFlowを実行できるフレームワークtensorflow_macosを使って各種AIモデルを訓練したところ、おおむねM1チップ搭載MacBook2モデルが16インチMacBook Proを凌駕する性能を発揮した。

以上の結果から、M1チップ搭載MacBookと比べれば(スペックを増強しても)もはやIntelチップの16インチMacBook Proは時代遅れ、と同氏は結論づけます。
AppleはMacBookとiMac、さらにはMac Proのすべてに関して、同社製チップを搭載したモデルを開発すると発表しています。それゆえ、機械学習モデル開発における同社のPCのシェアが今後大きくなるかも知れません。

以下の前編にあたる記事本文では、比較実験の概要と実験1と実験2の結果を解説していきます。

なお、以下の記事本文はDaniel Bourke氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。また、翻訳記事の内容は同氏の見解であり、特定の国や地域ならび組織や団体を代表するものではなく、翻訳者およびAINOW編集部の主義主張を表明したものでもありません。

右からIntelベースの16インチMacBook Pro、M1チップ搭載の13インチMacBook Pro、M1チップ搭載の13インチMacBook Air。

(ほぼ)トップスペックのIntelベースの16インチMacBook Proと、新しいApple製シリコンMacBook Airと13インチMacBook Proのスピードテストをしてみた

私はM1チップの基調講演を視聴して、グラフを眺め、バッテリー駆動時間を見て、 瞬時に目をみはった。そして、それに惹かれた。次いで考え始めた。この新しいM1チップ搭載のMacBookのひとつをどのようにして私の生活に取り入れられるだろうか。

もちろん、私はM1チップ搭載MacBookを必要としていなかった。しかし、別のコンピュータを購入することを正当化するために、どのようなストーリーを自分に言い聞かせることができるのだろうかと考え続けていた。そして、購入する口実を思いついた。私の16インチMacBook Proは重くて、ずっと持ち歩くことは無理だ。ああ、これでいいや。この2.0kgのアルミ製のハイスペックマシンは、持ってうろつき回るには重すぎる。

ちょっと待てよ…2.0kgってことは4.4ポンド?

たったそれだけの重さだったのか?

そうなのだ。

うわぁ。そんなに重くないのに。

いいかげんにしてくれよ…真実でいい話の邪魔をしないで欲しいね。

結局、M1チップ搭載MacBookを買う口実を作った。ぴかぴかの新しいそれを1台(あるいは2台)注文した理由は、次の通りだ。私の16インチMacBookは重くてカフェまで持ち歩いてコードや文章を書いたり、動画を編集したり、散発的にメールをチェックしたりするには重すぎるのだ。

そして、Appleによれば新しいM1チップはさまざまなことに関して11倍、15倍、12倍、あるいは3倍速いというのだ。これらは示唆に富む数字だが、私が過去に計測したわけではない。

私が気にしているのは、必要なことを早くできるかどうかということだけだ。

前の文の最後の言葉が一番重要である。PCの仕様に関して、もはや譲れないものがある。スピードは今や私の一部だ。ハードドライブからソリッドステートドライブへの移行以来、もう後戻りしない。

16インチMacBookを購入したのは2020年2月。ちょうど大きなプロジェクトを完了したばかりで現金をたんまり持っていたため、私の未来を約束する自分のワークステーションを買うことにした。毎日動画を編集していて処理遅延が大嫌いなので、購入できる範囲で最高の相棒となるような製品を選びたいと思い、ストレージ以外は基本的にスペックをすべてMAXにした(スペックは以下の表を参照)。

ありがたいことに、私にはビーストマシンの購入に際してAppleストア店員としてのディスカウント適用が使える友だちがいた(Joeyに感謝)。

いずれにしても、私の第一の基準であるスピードについてはすでに話した。他の要求についても考えてみよう。

  • スピード。速くないと迷子になる。
  • コスト。コストもPCに要求する大きな要素だが、ただ単によりハイスペックなマシンや、高品質なだけのコンピュータにお金を払いたくない。PCとは私の第一のツールなのである。アート作品を作るため、お金を稼ぐため、学ぶため、そして世界とつながるために使うものだ。
  • 携帯性。一日中オフィスに座っているのは嫌だ。コンセントを探さずに数時間カフェや図書館に持って行けるのか。携帯性はバッテリー寿命と重さの組み合わせにもとづいて検討しよう。

なぜテスト/比較するのか

テストしないでいられようか?

実のところ、私はギークであり。Appleのファンでもある。それに私の大型かつ最上位モデルである16インチMacBook Proが、新しいM1チップ搭載のそれと公平に比べてみてどうなのかを見たかった。

さらに、M1チップという新しいコンピューティングデバイスに覚えた興奮は、初代iPhone登場以来のものだった。

その他の理由としては軽いノートパソコンを持ち歩いたり、税金の優遇措置を受けたいということもあった(年末までにもう一台買っておけば、優遇措置を請求できる)。

Macのスペック

私は新しいマシンを購入するときはいつも、RAMとストレージをベースラインから1ステップか2ステップくらいアップグレードしている。

512GBのストレージと16GBのRAMが最近の私にとっては最低限のもののようだ(まじめな話、128GBのMacBookを実質的に運用している人はいないのではないだろうか)。

ということで、M1 MacBookの場合は両方のRAMを8GBから16GBに、13インチProに関してはストレージを256GBから512GBにアップグレードした。

16インチのMacBookは現在の私のマシンで、以下のテストを実行するまでは特に問題はなかった。

(以上の3台のMacBookのスペックをまとめた表が以下)

M1チップMacBook Air

M1チップ13インチMacBook Pro

Intelベース16インチMacBook Pro

CPU8コアM18コアM12.4GHz 8コアIntel Core i9
GPU7コアM18コアM1AMD Radeon Pro 5500M(8GB GDDR6メ‍モ‍リ搭載)
Neural engine16コアM116コアM1なし
メモリ (RAM)16GB16GB64GB
ストレージ256GB512GB2TB
重量1.29 kg1.4 kg2.0 kg
最大バッテリー連続駆動時間(見積り)~15時間~20時間~11時間
OSmacOS Big Sur 11.0.1macOS Big Sur 11.0.1macOS Big Sur 11.0.1
*(実勢)価格$1,899 AUD ($1,430 USD)$2,599 AUD ($1,950 USD)$6,649 AUD ($5,000 USD)
**(ベースライン)価格$1,899 AUD ($1,430 USD)$2,299 AUD ($1,730 USD)$6,049 AUD ($4,550 USD)

(表:テストするMacBook Proのスペック表)テストしたそれぞれのMacのスペック。注意: それぞれのモデルにより安い構成があるものも、私は通常、RAMとストレージをアップグレードする。

  • *(実勢)価格とは、私が各モデルに支払った価格。注:MacBook Pro 16-inchは、Appleで働く友人がいて、彼の従業員割引を適用してもらったので、実際に支払ったのは$5,500AUD(ありがとうJoey)。
  • **(ベースライン)価格とは、ストレージ以外のすべての処理コンポーネントをアップグレードした場合の価格(例えば、M1モデルでは8GB→16GB RAM、Intelモデルでは2.3GHz→2.4GHz)。(ストレージを除くのは、そのアップグレードがもっとも高くつくからだ。)
(※訳註1)上記表の「AUD」はオーストリアドル「USD」はアメリカドルを意味する。

テスト

基調講演で見たAppleのグラフは印象的だった。そしてGeekBenchスコア(※訳註2)はさらに印象的だった。しかし、これらは私にとっては机上の数字に過ぎない。M1チップ搭載MacBookが、私が実際に日常的に行っていることでどのようなパフォーマンスを発揮するのかを見たかったのだ。そうした日々のタスクは、以下の通り。

  • 文書作成。どのMacBookも文書作成を得意としていると仮定している。
  • ウェブ閲覧。上記と同じで、不得意なマシンはないと仮定。
  • 動画編集。気になっていた主な用途の一つであり、専用GPUを搭載した16インチMacBook Proを購入した大きな理由のひとつとなった用途でもある。
  • コード作成。テキストエディタはそれほど必要ないが、最近のXcodeはかなり重くなってきている。
  • 機械学習モデルの訓練。私は機械学習のコードをたくさん書いている。ノートPCで最先端モデルを訓練できるとは思っていないが、少なくとも色々いじったり、実験したりできるのが望ましい。
(※訳註2)Geekbenchとは、クロスプラットフォームで動作するベンチマークソフト。対応OSはwindows、Mac、Linux、Android、iOS。有料ソフトだが、共有サイトへスコアを自動で投稿するトライアウトモードのものは無料。アップロードされたスコアを閲覧できるGeekbench BrowserからM1チップ搭載MacBookのスコアを検索できる。
以上のように自分のPCの用途を振り返ったうえで、3つのテストを考案した。
  1. Final Cut Proを使った動画の書き出し。今年の初めにかなりの長さの動画(2020年の機械学習ロードマップについてのもの)を作ったのだが、2時間37分以上であった。そこで、各マシンがどのくらいの時間をかけてこの動画を書き出すかを見るのがクールだと思った。
  2. CreateMLを使った機械学習モデルの訓練。CreateMLとは、Appleが開発したブラックボックスの機械学習モデル作成機能だ。すぐに使える大きなXcodeファイルは持っていないが、CreateMLが新しいAppleシリコンでどのように機械学習モデルの訓練を処理するのかを見てみることにした。
  3. tensorflow_macosを使ったTensorFlowのネイティブコードの実行。一番楽しみにしていたテスト。AppleとTensorFlowの運営元は、新しいTensorFlow for macOSフォークが新しいM1チップ上を使った機械学習モデルの訓練を劇的に高速化したと書いたブログ記事(※訳註3)を公開した。この主張は本当なのだろうか。
(※訳註3)tensorflow_macosのGitHubページの「about」には、「TensorFlow for macOS 11.0+は、AppleのMLComputeフレームワークを使用して高速化された」という記述がある。
もっと広範囲にテストしないのかって?

私にとっては以上で十分。他にもやることがあるのだ。

そんなわけで、テスト結果を披露する時間だ。各実験における最高の結果は太字で強調するようにした。

実験1:Final Cut Proの動画書き出し

今回は、すべてのマシンにRAW動画をプリレンダリングするための十分な時間が与えた。そのため、エクスポートボタンがクリックされたときには、すべてのマシンに比較的同じページが表示されているはずだ。

実験の詳細:

  • 動画の長さ:2時間37分余り
  • エクスポートファイルサイズ:26.6GB(見積り時)、~6.5GB(実際のサイズ)

M1チップMacBook Air

M1チップ13インチMacBook Pro

Intelベース16インチMacBook Pro

書き出し時間38分10秒32分38秒21分23秒
スタート時バッテリー残量89%92%87%
終了時バッテリー残量78%83%51%
バッテリー残量変化-11%-9%-36%

驚くことではないが、16インチMacBook Proで最速で書き出された。その理由として最も可能性が高いのは、専用の8GB GPUや64GBのRAMを搭載しているからだろう。

しかし、専用GPUを使った代償として、バッテリーの消耗とファンの回転数がすごいことになった(テストを収録した動画では、ジェット機のようにファンが暴走している様子が見られる)。

動画の書き出し中、M1チップ搭載のMacBook AirとMacBook Pro 13インチは完全に無音のままだった(MacBook Airにはファンがないので当然だが、MacBook Pro 13インチのファンは一度もオンにならなかった)。

実験2:CreateMLを使った機械学習モデルの訓練

私はこれまでCreateMLで訓練された機械学習モデルを実際に使ったことはなかった。しかし、Appleのカスタム機能のひとつが、同社製の新しいシリコン搭載PCをどのように活用するのかを見てみることにした。

今回のテストでは、各MacBookのCreateML設定を以下のようにした。

  • 課題:マルチクラス画像分類。
  • モデル:CreateMLを使った画像分類(Appleはどのようなアーキテクチャを使用しているのか教えてくれないが、ResNetだと推測される)。
  • データサイズ:訓練画像7500枚、テスト画像2500枚
  • 最大イテレーション数:25
  • データ拡張:反転、回転

実験2の設定:CreateMLを使った画像分類機械学習モデルの訓練、訓練画像7500枚、テスト画像2500枚、最大イテレーション25回(モデルは10回で収束するようだ)、反転/回転のデータ拡張。

M1チップMacBook Air

M1チップ13インチMacBook Pro

Intelベース16インチMacBook Pro

モデル訓練時間11分30秒15分30秒43分、再開後10分(未完了)
スタート時バッテリー残量72%75%31%
終了時バッテリー残量68%69%0%*
バッテリー残量変化-4%-7%-31%

(表:CreateMLを使った実験結果)CreateMLを使った画像分類モデルの訓練結果。驚くべきことに13インチのMacBook Proの8コアGPU M1に対して、ファンがなく7コアGPU M1を搭載しているにもかかわらず、MacBook Airが最速なパフォーマンスを発揮した。

  • *MacBook Pro 16インチはテストが終わる前に停止してしまった。

すべてのテストの中で最も驚くべき結果は、訓練時間とバッテリー駆動時間の両方で、M1 チップ搭載MacBook Airが明らかな差をつけて優勝したということだ。このモデルはMacBook Pro 13インチよりもファンとGPUが1つ少ないにも関わらずだ(私が使ったMacBook Airは8コアCPUと7コアGPUのM1チップを搭載していた)。

以上の結果は、CreateML機能がM1チップに最適化された可能性があることも明らかにしている。8つのCPUコアと専用GPUを搭載しているにもかかわらず、16インチのIntelチップ搭載MacBook Proは実験を終える前に電力を使い果たしてしまった。

(後編に続く…)


原文
『Apple’s New M1 Chip is a Machine Learning Beast』

著者
Daniel Bourke

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

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