
AIに仕事が奪われるのではないかという不安が広がるにつれて、人の生活を保障する新たな手段としてベーシックインカムが注目されています。
たしかに、AIによって人が失業したとしてもベーシックインカムで生活を保障すれば、人々の生活が守られそうです。
しかし、本当にAIの活用が進めばベーシックインカムを導入しなければならないのでしょうか。
今回は、AIの発展に伴うベーシックインカムについて説明します。ベーシックインカムとは
目次
ベーシックインカムの定義
ベーシックインカムとは国民が生活を送る上で最小限度の金銭を配布する政策のことです。
年齢や就業の有無に関わらず全ての人が同額を受け取ることができるため、その平等性が支持されています。
いつ頃から注目されていた?

ベーシックインカムは、1516年にイギリスの法学者トマス・モアが著書『ユートピア』でベーシックインカムの必要性が説いたのが起源とされています。
その後、ベーシックインカムのアイデアはヨーロッパ各地に広まり、ベルギーのイープルでは実際に実践されたこともありました。
そして、ベーシックインカムの考え方は現代にまで絶えず受け継がれ、2016年にはスイスでベーシックインカム導入の是非をめぐる国民投票が行われたこともあります。
なぜ今ベーシックインカムが必要と言われているのか
格差社会の進展

資本主義による富の一極集中
ベーシックインカムが注目される理由として、資本主義による格差の拡大があります。
資本主義社会ではビジネスや投資に成功した人はどんどん裕福になっていく一方で、そうでない人はなかなか貧困から抜け出すことができません。
そして、近年はその格差がますます広がっている言われています。
そういった格差を解消する目的で、ベーシックインカムが注目されています。
AIの発展で仕事が奪われるのではという恐れ
富の一極集中をAIが促進する
AIが社会で活用されるようになると、人の仕事がAIに奪われて大量の失業者が発生するのではとの考え方もあります。AIは業務によっては人間以上の高いパフォーマンスでタスクをこなすことができ、人を雇うよりも圧倒的に業務を効率化できます。
そのため、経営者はAIを導入する代わりに人員を削減しようと考えるのではないでしょうか。
そして、経営者など一部のブルジョワだけに富が集中するようになれば格差の拡大に繋がります。
「winner takes all」という言葉が有名です。
「winner takes all」とは、勝者による一人勝ちの状態のことです。特にAI領域においては、ビジネスにおいて一度優位な立場になると、データを活用して、新たなAIを活用し、さらに洗練したサービスを作り上げることができます。
他にも巨大なプラットフォームを作り上げることで、ネットワーク効果を生み出し、一度優位にたった企業を他の企業が追い越すことがとても難しい状況になっています。
GAFAが代表的な例です。GAFAは自社プラットフォームに大量のユーザーを集め、そこからユーザーに関するデータを収集して新たな価値の創造に生かしています。
しかし、データがGAFAという一部の企業にのみ独占されているのではという批判の声も集まっています。
そのように、AIが発展すればするほどビジネスのwinner takes all化が進む可能性もあると言えます。

ベーシックインカムのメリット
全ての人の生活が保障される
2016年の厚労省の調査によれば、日本でも年間で15人が餓死しているそうです。
生活保護は保有資産や家族との関係、健康状態など受け取るために厳しい条件が設けられており、受給したくてもできない人が多いそうです。
ベーシックインカムであれば従来の社会保障とは違い、国民全員が最低限度の金銭を受け取ることができます。そのため、全ての人の生活を国が保障することが可能になります。
心に余裕が生まれる
自分の状況に関わらず生活が保障されるというのは精神的に大きな安定をもたらします。
ベーシックインカムのない状態で働いていると、離職したら生活に困るという心配があります。
そのため、ブラック企業や病気など何らかの事情があったとしても会社を離れられなくなるという問題があります。
しかし、ベーシックインカムで生活が保障されていれば安心して離職できます。
人の代わりにAIが働いてくれる社会に
AIなどのデジタルトランスフォーメーションによる効率化によって、人間が仕事に関与する割合は今後、少なからず低下していくでしょう。一方で、企業としての収益は、急激な生産性の向上によって、大きく伸びていく可能性もあります。
そんな時代がもし来れば、AIによって収益が伸びた企業の法人税を増やし、ベーシックインカムの財源にできるかも知れません。
また、昨今のWeb領域の発展によって、生産者と消費者をダイレクトに繋ぐプラットフォームの発展や、シェアリングエコノミーなど、生活にかかるコストが安くなっている傾向にあります。特にコンテンツ領域では、サブスクリプション制が発展し、映画や音楽などが定額で安価に利用可能になっています。
今後、あらゆる産業で、プラットフォームによる低コスト化が進めば、プラットフォームの収益は増える一方で、私達の生活コストが低くなることが予想できます。
そうなれば、winnerであるプラットフォームの収益の一部を生活者のベーシックインカムの原資に充てるような税制を策定する必要性が生まれてくるかもしれません。
もちろん、仕事をしたい人は働くこともできますが、そうでない人はベーシックインカムだけで生活することもできます。そのように、個人の自由に合わせて柔軟な選択肢を提示できる社会になるのではないでしょうか。
ベーシックインカムのデメリット
不正受給
ベーシックインカムが導入されると不正受給を企む人も出てくるかもしれません。
例えば、ベーシックインカムは年齢に関係なく受給できるため、子供を大量に産み育児放棄する親が現れてもおかしくありません。また、死亡届を意図的に提出しないケースも考えられます。
そのような不正受給に対する対策も必要になります。
財源の確保
ベーシックインカムを実施するための財源も必要になります。
もし日本でベーシックインカムを導入し、国民一人当たり7万円支給したとすると全体で100兆円が必要になると言われています。
財源確保の手段の一つとして増税があります。
ベーシックインカムの財源を確保するためには高所得者や大手企業に対して増税する必要があると考えられますが、その層の人々をどう説得するかが課題です。
ビジネスにおける競争意識の低迷
ベーシックインカムが導入されると、ビジネスにおける競争意識が低迷する可能性があります。もしそうなると、競争社会に比べてものやサービスの質が下がってしまうのではないでしょうか。
そのため、ベーシックインカムと競争意識の両立が必要になります。
AI失業は起こらないという意見も
AIによる失業への対策として注目されるベーシックインカムですが、失業は起きるのでしょうか。
AIが社会で活用されるようになっても大規模な失業が起きるわけではないという見方もあります。
確かにAIをビジネスに活用すれば定型業務を自動化し業務を効率化することができます。しかし、クリエイティブ分野などAIにはできない人間ならではの仕事には依然として人手が求められます。
また、AIによって消える仕事があったとしても、同時にAIによって新たに生まれる仕事もあります。そのため、雇用には影響がないとも考えられます。
そういったことから、AI失業に備えてのベーシックインカムには必要性がないのかもしれません。
ベーシックインカムの事例
フィンランドではベーシックインカムの実験

フィンランドでは2017年から2年間、2,000人の失業者に毎月560ユーロを支給するベーシックインカムの実験が実施されました。
結果として、雇用の面ではベーシックインカムを受給しているグループとしていないグループでは就業日数に大きな差は現れませんでした。
つまり、ベーシックインカムを受給しているからといって人は働かなくなるわけではないということです。
また、アンケートからベーシックインカムによる国民の幸福度上昇にも効果があったそうです。
ナウル共和国ではベーシックインカムが失敗に

ナウル共和国では20世紀後半からベーシックインカムが国民全員を対象に実施されました。
一人当たりに非常に高額なベーシックインカムが支給されたため、国民は全く働かずに贅沢な暮らしを送れていたため、一時期は楽園として世界から注目されていました。
しかしその後、ナウルは資源の枯渇から財政破綻の危機に陥ってしまいベーシックインカムは継続不可能となります。
国民は長期にわたるベーシックインカム生活によって労働の概念すらも失っている状態で、失業率90%という状態から抜け出せないでいます。
あまりにも高額なベーシックインカムは人の労働意欲を奪ってしまい、ベーシックインカムが立ち行かなくなると裏目に出るということです。
そのため、ベーシックインカムを導入するにはいくらが適正なのか考慮しなければいけません。
まとめ
AIによる失業への心配から注目され始めているベーシックインカム。
失業したとしても生活が保障されているとなれば、確かに国民の生活や精神にゆとりができそうです。
ただ、その利用にはメリットがあるのと同時に、使い方を誤ればデメリットが生じてしまうことも事実です。
また、AIによる失業が起こるということに懐疑的な意見もあります。
そのため、AI失業に向けたベーシックインカムの必要性についてもう一度見直してみてはいかがでしょうか。
慶應義塾大学商学部に在籍中
AINOWのWEBライターをやってます。
人工知能(AI)に関するまとめ記事やコラムを掲載します。
趣味はクラシック音楽鑑賞、旅行、お酒です。